最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)1211号 判決 1964年7月10日
上告人
西村義博
右訴訟代理人弁護士
藤田良昭
被上告人
株式会社大阪新聞社
右代表者代表取締役
沢村義夫
右訴訟代理人弁護士
高坂安太郎
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人藤田良昭の上告理由について。
相手方の提出した防禦方法を是認したうえその相手方の主張事実に立脚して新たに請求をする場合、すなわち相手方の陳述した事実をとつてもつて新請求の原因とする場合においては、かりにその新請求が請求の基礎を変更する訴の変更であつても、相手方はこれに対し異議をとなえその訴の変更の許されないことを主張することはできず、相手方が右の訴の変更に対し現実に同意したかどうかにかかわらず、右の訴の変更は許されると解するのが相当である(大審判昭和九年三月一三日民集一三巻四号二八七頁参照)。そして、右の場合において、相手方の陳述した事実は、かならずしも、狭義の抗弁、再々抗弁などの防禦方法にかぎられず、相手方において請求の原因を否認して附加陳述するところのいわゆる積極否認の内容となる重要なる間接事実も含まれると解すべきである。
ところで、原審判決(一審判決引用、以下同じ。)および一件記録によると、被上告人は、当初、上告人先代西村政禧に対し係争家屋が被上告人の所有に属するとしてその所有権にもとづき係争家屋の明渡ならびに延滞賃料および賃料相当損害金の支払を請求したところ、同人は、係争家屋は被上告人所有のもとの家屋を取りこわしたうえあらたに建築して上告人先代西村政禧の所有に属する旨主張して積極的に被上告人の所有権を否認した。そこで、被上告人先代西村政禧が先に陳述したところに従い係争家屋の所有権が同人に属することを前提として、あらためて本件土地の所有権にもとづき同人に対し係争家屋の収去とその敷地の明渡の請求を、第一において、予備的に追加したことが認められる。
右訴訟の経過によると、本件においては、被上告人は、係争家屋の収去とその敷地の明渡の請求を、上告人先代西村政禧の提出したいわゆる積極否認にかかる事実を是認したうえこれにもとづいて新たに右請求を予備的に追加したものと認められるから、前段説示のところから明らかとなり、右の訴の変更は許容するのが相当である。それゆえ、被上告人のした訴の追加的変更を許容した原審判決の判断は相当というべきであり、原審には、所論のような違法はない。
所論は、失当として排斥を免れない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)